本番に弱いタイプ
頭ではわかっていてもそれを実行できない人間というのはいる。僕の後輩のA君だ。
彼にある仕事を任せた。説明をすれば「はい、わかりました」といい、実際、スラスラとシステム設定ができた。システムの細かい話をしても通じているようで一応、会話になった。
ある仕事というのはスケジュールが遅れに遅れている。遅れている原因は全く別のところにあり、A君が担当している範囲は問題なく稼働している、、、はずだった。
「アズ君さぁ、ここの仕様教えてくれる?」
僕の上司のひとりがそう尋ねてきた。はいはい、念のために仕様を確認したいんですね。いくらでも教えますよ。
「アズ君さぁ、ここの設定ってどうなってる?」
また別の上司が僕に質問してきた。ん?そこはA君に問題なく設定してもらってるはずですよ?A君に直接聞いてくださいよ。
どうもなにかしらの問題があるようなのだ。問題があるならA君が僕に直接質問してくればいい。どうして上司を通して、こんな初歩的な仕様確認をしてくるのだ?
「そこはA君が把握しているはずですよ。わからないんだったらA君に直接質問するように伝えてくださいよ。A君はそれを嫌がっているんですか?」
A君はメンタルが弱い。箱に入れられて大切に育てられたようで、厳しく注意するとバリアを張って、こちらの意見をシャットアウトしてしまうのだ。以前、僕は彼に厳しく注意したことがある。それで嫌われたのだろうか?
なぜ僕とA君の間にふたりの上司が入ってくるのか。僕には不思議でならなかった。
翌日。僕と上司ふたり、A君の四人で仕様確認のための打ち合わせを行った。
「A君さぁ、ここの仕様は理解してるよね?」
そう尋ねるもどうも様子がおかしい。モゴモゴと口ごもるA君。仕方がないので僕は上司と打ち合わせを進めた。A君は黙って座っているだけ。簡単な仕様だったので上司はなんなく理解する。A君は退席。
「どうも本番に弱いタイプみたいなんだよなぁ」
頭ではわかっていても実行力がないらしい。本番になると急にプレッシャーを感じるのかシドロモドロになるようなのだ。なるほど、間に上司が割り込んできた理由がようやくわかった。
「この程度の仕事だったら任せても大丈夫だと判断するよねぇ」
そう上司は言った。そうでしょう。全然大したことない仕事でしょう。本番に弱いタイプって言われても、それじゃあ役に立たないじゃないか。練習だけで終わる仕事なんてないんだぞ。さて、どうやってA君の攻略法を見つけ出そうか。悩ましい。