ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

人というのは思ったよりもあっさり死ぬ

人というのは、思ったよりもあっさり死ぬ。

 

上司のこと(大動脈剥離によって)

僕の上司もそうだった。もう数年前のことだ。

ある休みの日、電話がかかってきた。

 

「ご本人が亡くなられました」

 

なにをいってるんだかわからなかった。死の知らせというのは、だいたいの場合、突然で現実感の全くないものだ。

 

とりあえず、葬儀会場や時間などをメモってその時に備えた。喪服を準備しなくちゃ。白いシャツはどこにあったかな。香典はどうしたらいいだろう。そんな事務的なことを考えるだけで精いっぱいだ。

 

そして僕は言われるがままに会場に向かった。同僚に出会う。「どういうこと?」「さぁ?」状況が把握できない。昨日まで一緒に仕事をしていた人が亡くなったなんて言われてもピンとこない。

 

誰の顔にも表情がない。悲しいわけでもさみしいわけでもない。よくわからないのだ。上司は確かに体があまり丈夫ではない人だった。定期的に病院に通っているという話を聞いたことがある。まあ、そのくらいの歳になれば、誰しも持病らしきものは持っている。死に繋がるような病気ではなかったはずだ。

 

死の原因は大動脈剥離だったらしい。大動脈がとつぜん剥離し、場合によっては破裂してしまうらしい。食事中に苦しいといって倒れて、救急車を呼んだのだが、病院に着く前に亡くなられたということだった。

 

こんなにもあっさりと人って死ぬものなんだ。

 

このことが起きる少し前まで、僕たちのチームは確かに忙しかった。「できれば今日中には帰りたいよねぇ」そんな状況がずっと続いていた。

 

体があまり丈夫ではない上司にとっては思った以上に負担がかかっていたのかもしれない。僕は若さと責任感のなさで乗り切れただけかもしれない。

 

「さすがにツラいよなぁ」上司はそう笑顔で言っていた。

 

思い返せばいい人だった。今でも僕の上司でいたとしたら、イヤな上司になっていたのだろうと思う。上司ってのはそういうものだから。

 

「彼はいい男だった」

 

まわりの人々も口をそろえたようにそう言っていた。人は死んでから、ようやく評価されるらしい。

 

「僕はね、アズ君のやり方でいいと思う。そういう考え方で仕事ができる人っていないから、自分の長所だと思って、今のまま頑張りなさい」

 

上司との最後の面接で言われた言葉だ。素直な言葉で僕のことを認めてくれる上司なんて今までいなかったから、うれしかった。僕はこの言葉をかてに今でも頑張っている。

 

クラスメイトのこと(交通事故によって)

高校時代のクラスメイトだったひとりが卒業したその春、交通事故で亡くなった。そこは事故が多いことで有名な峠で、スピードを出し過ぎてカーブを曲がり切れずに事故ったらしい。

 

さいわいにも他人を巻き込むことはなかった。この話を聞いたとき、僕は全く実感がなかった。仲のいい友達ということでもなかったから、卒業後に会うこともなかった。彼が実はまだ元気にしているといわれれば、あっさりと信じてしまうと思う。

 

卒業後に会わなくなった多くのクラスメイトは、今でも元気なのか、そうではないのか、全く知らない。知らないが、きっと僕とそんなに違わない生活を送っているのだと思う。

 

僕は旅に出るとこれと同じような感覚に包まれる。僕がこの街にいない間も時は流れていて、いろんな出来事が起きているんだなぁという当たり前のことを思う。そんないろんな出来事がパラレルで起きていることに不思議さを感じるのだ。

 

そして、僕が旅で留守にしている間にも自分の部屋には静かに時が流れている。僕が今、この瞬間なにをしているかなんて世界中のほとんどの人は知らないし、興味もないだろうし、そもそも僕の存在すら知らない。

 

交通事故で18歳で亡くなったクラスメイトは、18歳以降の人生を知らずに終えた。18歳なんてずいぶんと昔のことなんだけど、あれ以降、彼の人生はなかった。

 

その間に僕にはいろんなことがあった。とりあえず今日までの人生を歩んでこられてよかったと思っている。明日からも僕の人生はこれでよかったと思えるように生きたいし、人生の最後を迎えたときにニコリとできたら最高だと思う。

 

 

癌で亡くなった子

母がガンで入院しているときに、いつも廊下の突き当たりの窓から外を眺めている子がいた。パジャマを着て白い毛糸の帽子をかぶっていた。僕の記憶にあるのは、その子の後ろ姿。

 

外で遊びたいのかなぁ。みんなと同じように普通に学校に行きたいのかなぁ、とそんなこと考えながら、僕はその子のことを見ていた。

 

「そういえば、最近、あの子見てないな」

 

その子は白血病で幼くしてその人生を終えたと聞いた。その子と僕は直接、接することはなかったが、名前も知らないその子の後ろ姿は僕の記憶の中に鮮明にある。

 

会社に入ってきた2年目の彼は肺ガンであっけなくこの世を去った。2年目の健康診断で肺に影が見つかり、精密検査を行ったのだが、すでに末期だったという。

 

全く普通に生活していたのに。つい先月、一緒に飲みに行ったばかりなのに。ガンなんて知ったら希望なんて持てるはずないよな。頑張れって言われたって、どうしようもできないもんな。精密検査を受けて、わずか半年後のことだった。

 

人が死ぬのって、思っているよりもあっけないものだけど、だからといってあっけなく彼らの記憶が消えるわけではない。むしろ鮮明さを増し、僕のこれからの生き方についていろいろと考えさせてくれる。