ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

悪意のない会話

「Tさんにがん宣告されちゃったんですよね」

 

突然、その人はそういった。どうやら夢の話らしい。同じ職場のTさんに会議室に呼ばれて、その場でがん宣告をされたとのこと。すい臓がんだと言われたらしい。

 

「うちの母親、すい臓がんで亡くなったんだよなぁ」その人の話を聞いて僕はとっさの反応に戸惑った。どう返せばいいのか。

 

「どうしてTさんにすい臓がんだなんて言われなきゃいけないんですかねぇ」

 

その人は楽しそうに笑いながら言った。僕にとっては笑える話ではない。

 

「すい臓がんってのは早期発見が難しいですからね」と僕は答えた。そんなことはその人にとっては重要なことではない。現実にはすこぶる元気なのに夢で死の宣告を受けたというあり得ない話が面白い。ただ、それだけの話なのだ。

 

「僕の母親、すい臓がんで亡くなったんですよね」と答える選択肢もあったのだろうが、その返答では誰もしあわせにならない。その人にとっては単なる笑い話なのだ。僕の身内の不幸なんて関係ないのだ。

 

そこに悪意がないのはとても応える。