自分の気持ちに気が付かないふりをして出かけ、自分の気持ちに気がつく
海が見たいと思っていた、ずっと。見たいとも思っていながらも、なんだかんだと自分にいいわけをしては行動に移さなかった。
「近いと思うと行かないもんですよねぇ」
遠くの観光地には行きたいと思うくせに近くの名所には行こうとしない。いつでも行けるという怠慢。
今日は行こうと思った。次の瞬間に行かない理由を探そうという気持ちが湧いた。その気持ちに気が付かないふりをして僕は着替えた。
「せっかくこの時間に目が覚めたんだ。天気もいいし、海を見に行かない理由なんてないだろう」
水平線の向こうから上がってくる太陽が見たかった。日の出までは1時間以上ある。車を飛ばせば20分で到着する。余裕だ。早くに着いて、まだ薄暗い浜辺を散歩するのもいいだろう。
玄関を開けると、そこはすでにブルーとオレンジの混ざりあった空間。
「太陽が登り始めている」
急がなくても大丈夫。
海辺に到着。太陽は水平線の下で僕が到着するのを待っていてくれた。キラリと雲の隙間が光っている。
今日の波はすごい。「おぉ」って思わず口にしてしまうくらいにすごい。波を漫画で描いたらきっとこんな感じになるのだろう。
海辺を歩く。波打ち際ギリギリに。
このあたりにはいろいろなものがたどり着く。
「自販機!?」
まさか、こんなところまでわざわざ自販機を捨てにきたわけでもなかろう。だとすれば、どこからか流れ着いてきたものか。大震災のあの日のものなのか。
陽が登る。この瞬間だけの日の出。一日がはじまる。
やっぱり来てよかったと思う。きっと僕は気持ちをリセットするために今日、ここに来たんだ。
こんな場所が近くにあるだなんて。
僕はしあわせだ。