捨て神様の正体
「久しぶりにあのジャケットを着て行こう」
今の時期にあのジャケットはよく似合う。少し寒いのでマフラーをグルっと巻く。マフラーは今の時期でも重くないものにしよう。
「ん?ジャケットどこやったっけ?」
クローゼットを探しても見つからない。別の部屋にあるのかと思い、そちらを探しても見つからない。おかしい。これ以上探すところはない。クリーニング屋に預けっぱなしにしているなんてこともない。衣装ケースに収納するようなものではないが、念のため確認する。どこにもない。
「ヤフオクで売ってしまったのだろうか。」
その可能性が一番大きい。だが記憶にない。去年の秋頃に容赦ない捨て神様が僕のもとに舞い降りてきて、大量の服を手放した。現在の服の量は過去最小だ。その最小限の服で今年の冬は乗り切ったのだが、そのこと自体は大して問題でもなく。むしろ選択肢が減り、朝の時間を有効に活用でるようになった。
その容赦ない捨て神様があのジャケットを捨ててしまったのだろう。捨て神様の正体は僕なんだけれども。
ヤフオクの履歴を確認
ヤフオクの取引履歴を確認してみたのだが、履歴は過去120日分しか確認できないようで、確認したかった履歴は残念ながら削除されていた。落札者とのメールのやり取りもすでに削除している。あのジャケットを本当にオークションで手放したのか確認するすべがない。捨てて後悔しているわけではない。あのジャケットの行方が思い出せないのが歯がゆい。
代用ジャケット
あのジャケットを着て行く気満々だった僕は、今日の服装に悩むことになった。今の時期には少し早い薄手のジャケットならある。それにマフラーを巻けば寒くはないのだが、なんとなく全体のバランスが悪い。
とりあえず今日はその格好で出かけた。そして行方不明のジャケットの行方を考えた。ジャケットを梱包した様子も思い出せない。ヤフオクに出品するために写真撮影した記憶もない。いくらで売れたのかも覚えていない。やはりヤフオクに出品したのではないのだろうか。
出張に行く際はいつもあのジャケットを着用していた。まわりはみんなスーツを着ていたが、僕はジャケットに普段着用のパンツという格好だった。どうせ誰もに気にしてはいないと思っていたが、日本は右へならえの社会だから、僕だけ浮いていたのかもしれない。喪服はあるのだが、まさか喪服の上をジャケット代わりにして出張に行くわけにもいくまい。どうするかは出張の予定が決まってから考えようと思う。
後日談〈2016年6月追記〉
「ジャケット借りっぱなしだった」
そういったのは僕の兄弟。そうだ、僕は兄弟にこのジャケットを貸していたんだった。どうりで捨てた記憶がないわけだ。捨て神様のなさけだ。