そんなものに僕の生き方を縛られたくない
「たたき起こされちゃったなぁ」
救急車のサイレンの音。もしくは消防車のサイレンの音。響き渡る朝の4時。
なにもこんな早朝にサイレンを鳴らさなくてもと思う。こんな早くから救急隊員は人のために仕事をしているんだなぁとも思う。人として思わなければいけなのは後者だ。
助ける人と助けられる人がいる。頑張っている人と困っている人がいる。こんなに朝早くから。
人が亡くなるのは早朝がいちばん多いと聞く。そういえば、僕の母親が亡くなったのも早朝だったなぁ。
「お前はうちに帰って少し休め」
今日か明日かと伝えられた母の様態。僕たち兄弟は病院でずっと見守っていた。眠くもなかったし、疲れもしなかった。
だけども兄弟は朝から仕事。僕は彼に無理せず休んでこいと伝えた。
そのわずか数時間後に母は息を引き取った。
僕はその瞬間に立ち会えた。兄弟は立ち会えなかった。それは今でも僕の後悔になっている。きっと兄弟も母の最後に立ち会いたかっただろう。
僕は仕事中の兄弟に伝えなければならなかった。
「母さん、ダメだったからね」
死んだという言葉を使いたくなかった。現実をそのまま伝えるのはいやだった。認めたくなかった。
そのあとのことは、あまり覚えていない。あまりにもバタバタとし過ぎていて。でも、それくらいがちょうどよかったんだと思う。悲しんでいる暇などないくらいの方が。
あれから何年経っただろう。
「新しい年の4年目がお母さんの次の法事です」
僕が引っ越す前にお寺さんにそう言われた。僕はご先祖様をお寺に預けてきた。
引っ越してきてから一度も里帰りはしていない。お墓参りもしていない。
預けてきたご先祖様とお墓。この先、どうすればいいものかと悩む。ご先祖さまはこのままお寺にお願いし、お墓は閉めてしまおうかと思っている。
そんなものに僕の生き方を縛られたくない。
冷たい考えの僕がいる。