ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

靴磨きに精を出す

革靴

靴を磨いた。一ヶ月くらい前から磨かなきゃと思いつつ先延ばしにしていた。靴を磨くくらいの時間はいくらでもあった。「また今度でいいや」そう思っている間に靴はどんどんくたびれていった。

 

「よし、やるか」

 

気合を入れないとできないことでもないはずなのに、そうしないと行動に起こせない。

 

二足の革靴をそれぞれ並べる。まずは軽く汚れを落とす。傷つけないように。次にクリームを塗る。全体に。ムラのないように。色が薄くなっている部分は重点的に。女性が念入りに化粧水を浸透させるように。

 

全体的に色味が増し靴が蘇る。少し時間をおいて磨き上げるとツヤ感が増す。なんだかいい感じ。新しいものを買ったわけでもないのに、そのときと同じような高揚感がある。安上がりな高揚感で助かるね。

 

次の日の朝。さっそく磨いた靴を履いて出勤した。靴を履くときにニヤリとする。モノを大事にする自分に酔いしれる。いいんだ、酔いしれても。誰にも迷惑をかけることじゃないから。

 

会社の駐車場に車を止める。車から降りる。磨き上げた靴が目に入る。ここではニヤリとはしない。誰かに見られたら、気持ちの悪いやつだと思われるから。なんだか一歩一歩が軽い。気分がいい。気分がいいから今日は大きな声で挨拶をしよう。いや、気分に惑わされずに今度からは大きな声で挨拶をしよう。学校の先生に指導されるようなことを思う。

 

この誓いはね、明日になったら忘れてしまうと思う。靴を磨いたくらいじゃ、いつまでも高揚感は続かないから。日が経つにつれ僕は疲れ切った毎日にぼそりと挨拶をするようになるのだと思う。その頃にはまた靴は汚れているはずだ。また磨けばいい。高揚感を取り戻せばいい。そうやってダメになりそうな自分を少しづつ修正していけばいい。

 

ダメになりそうになったら修正して、そんなことを繰り返して、少しづつ丈夫になっていけばいい。丈夫が大きくなったら大丈夫。壊れなければ大丈夫。