大切なものが多すぎるんだよ
「大切なものが多すぎるんだよ」
最近、どこかで耳にした言葉だ。どこで聞いたのだろうか。本?映画?誰かの会話?うーん、思い出せないなぁ。
印象に残る言葉だった。
「大切なものをたくさん持っているんだね」ではなく「大切なものが多すぎる」
僕の生活も多すぎたのだと思う。なにもかもが多すぎた。だから少なくしようと思った。
過ぎる
ある場所を通り越す。通過する。
時間が経過する。
そうか、過ぎるって過去形なんだ。今じゃなくて過去なんだ。だから多すぎちゃダメなんだ。過去をかかえてちゃダメなんだ。
過ぎる
一定の数量を超える。
普通の程度、数量を超えている。
自分の容量を超えてまで持つ必要はないよね。一定の数量、普通の程度ってのは人によってその基準は違うのだろうけど、その基準を間違えちゃいけないってことだよね。
両手いっぱいに大切なものをかかえたとする。大切なものはどんどん増えていって、一番下にあるものはなんなのか、自分でさえわからない。抱えられる量は限られているから、それはどんどんと溢れていく。なにを落としたのか。落としたことにさえ気が付かない。たくさんの大切なものを抱えているつもりでいるのは僕だけ。
「わたしがプレゼントしたもの落としちゃったんだね」
そんなことはないさ。ほらこんなに大事に抱えているじゃないか。えーっと、どこだっけ?ほら、左腕のこのあたり。
うわっ
僕は大切なものを確認するために必死にもがいて、バランスを崩して、そしてコケた。それらの大切なモノは海の底の暗いところへズブズブと沈んでいった。僕は自分の足元さえも見えなかった。たくさんのモノを抱えているだけで精一杯だった。
両手いっぱいに持っていたモノは全て失った。
残ったのはこの身ひとつ。