泥人形に吊るし上げられた話
まるで泥人形を相手にしているかのようだ。どうやったって相手には伝わらない。コンピュータシステムだからといってなんでもできるわけではない。できないことだってある。だから、その理由を説明し「申し訳ありませんが対応できません」と頭を下げた。何度も何度も。だがしかし、そんなことはなかったかのように数日後には同じ要望を出してくる。
「こういうのできませんかね?」
何度説明させれば気が済むんだ。相手は怒るでも怒鳴るでもなく淡々と要望を口にする。もう疲れたよ、泥人形の相手をするのは。
先日「行方」という本を読んだ.。そこにある母親が登場する。その母親はゴム人形だと比喩されている。
ゴム人形でも相手にしているかのようだった。いや、ゴムよりももっと柔らかく、薄っぺらい、手ごたえのないもの...(中略)こちらが何をどう投げつけたところで、避けるでも撥ね返すでもなく難なく受け止め、力を失わせて足元にぽとりと落とす。
システムを導入して三週間が経つのでその報告会として利用者の要望を僕に伝えたいという。
事前に資料が送られてきたのが昨日のこと。
その要望というのは予想通り、これまでなんども説明し、対応はできないということを伝えた案件ばかりだった。
皆の前で僕に「申し訳ありませんができません」とでも言わせたいのだろうか。吊し上げたいのだろうか。
つるし‐あげ
1 縛って高いところにつるすこと。
2 大勢で、ある人をきびしく非難すること。
何度頭を下げたら許してくれるのだろうか。それとも許してくれないのだろうか。
「お前がやったんだろ?素直に罪を認めろよ」
「やっていません。僕は無実です」
「お前がやったんだろ?素直に認めて楽になれ」
「すみませんが、トイレに行かせてもらえませんかね?」
「その前に罪を認めな。そしたら行かせてやるから」
その部署がシステム化を行いたいといったから協力してあげたのに。だから最初に「そちらで仕様をまとめて下さい」と言ったのに。
「でもシステムのことなんてわからないし」なんてのらりくらりと言葉たくみにかわし、僕に全てを押し付けた結果のこの仕打ち。
恩を仇で返されたような気分。
レベルの高いところで話し合いができるのなら、僕の力不足だったと妥協もできるけど、奴らは僕を低いところに引きずり込もうとしているだけ。逃げなきゃいけない。