ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

おばあちゃんちを勝手に片付けたら、すげー怒られた

片付け

今から二、三年前におばあちゃんちを片付けたことがある。おばあちゃんの入院がそのきっかけだった。おばあちゃんは自宅の裏庭で転び、自力では歩くことができなくなった。以前から右足は不自由だったようで、その影響もあり転んでしまったようだ。

 

おばあちゃんは病院へ行き、レントゲンをとってもらった。どうやら転倒したのは今回が初めてではないらしく、何度か転んだ形跡があるということだった。本人は気づいてないようだが、骨にヒビがはいっているという。おばあちゃん、スゲェな。その状態で生活してたんだもんな。

 

おばあちゃんはおじいちゃんが亡くなってからはずっと一人暮らしをしている。今回のようなことがあると、さすがに今後もひとりで生活させるのは不安になる。だから、おばあちゃんに内緒で介護施設を探した。介護施設というのはなかなか空きがないらしい。しかし、知り合いからタイミングよくいい条件の施設を紹介して貰えた。

 

「おばあちゃん、こんなにいい施設を紹介してもらったよ」

 

おばあちゃんはあからさまに嫌がった。「早く家に帰りたい」「ひとりで生活できる」と。住み慣れた家がいいのはよくわかる。ひとりの気楽さもよく理解できる。介護施設で24時間他人の目を気にしながら生活するのは息がつまると思う。僕はきっとおばあちゃんの血を引き継いだんだね。僕もひとりがいいもの。ひとりを寂しいと感じたことがないもの。気楽だよね。

 

そうは言ってもさ、転んだらひとりで起き上がれないじゃない。今回だって庭で転んでいるのを見つけてくれた人がいたからよかったものの、見つからなかったら、夜だろうが、寒かろうが、雨が降ろうが、槍が降ろうが、ずっとそのままの状態で庭にいるはめになっていたんだよ?

 

いくら言い聞かせてもおばあちゃんは施設に入るとは言わない。全く聞く耳を持たない。「ひとりで庭には出ないようにするから」「今後は気をつけるから」と言う。そうはいってもね、体がいうことをきかないんだから気をつけようがないじゃない。でもまあ、嫌がることを無理に押し付けるわけにもいかない。心配をしながら、おばあちゃんを施設に入れるのはかわいそうという気持ちもある。

 

ここは僕が妥協するしかない。せめて、できるだけのことはしておこう。うちで転ばないように対策をしておこう。まずは、部屋を片付け、転ばないように動線を確保しよう。そう思い、僕はせっせとおばあちゃんちを片付けた。おばあちゃんに断りもなく。これがいけなかった。どうやら、おばちゃんにとっては大きなお世話だったらしい。

 

夜中トイレに行くことが多いというから、できるだけトイレに近い場所にベッドを移動した。おばあちゃんは最近ではベッドを中心に生活している。だから、その周りに生活に必要なものを配置した。動線となる廊下には手すりをつけた。

 

家の中のわずかな段差もなくすようにした。わずか1cmの段差でもつまづいてしまうらしい。むしろ1cmの差の方が気が付きにくいので危ないらしい。そういえば親戚のおばちゃんも「転ぶ時は畳の上でも転ぶのよ」なんて言っていた。

 

体の自由が聞かなくなったおばあちゃんの家は必然的にモノが多くなっている。モノがあれば動線は確保できない。歩きづらいし、つまづいて転ぶことにもなる。よし、いらないものは処分してしまおう。僕はおばあちゃんのモノを自分基準でせっせと捨てた。どう考えてもこれはいらない。あれもいらない。ゴミばかりだ。

 

この僕の勝手な行動がおばあちゃんの気に触れた。入院生活を終えて自宅に帰ってきたときのこと。自宅に帰ってきたときに「アレがない。コレがない。」と散々責められた。よかれと思ってしたことが完全に裏目に出た。配置を変えたこともお気に召さなかったよう。「どこになにがあるのか、さっぱりわからん!」とまた責められた。

 

冷蔵庫の中はカオスだった。数ヶ月前に買ってあげたプリンがそのままあった。それがプリンであったということは誰にもわからないような状態になっていた。牛乳はヨーグルトになっていたし、ラップに包まれたそれは、もはや元が何であったかわからない状態だった。

 

冷凍庫の中は霜だらけで、まるで氷河期のようだった。ほとんどのモノが賞味期限切れだったので、惜しむことなく全て処分した。いくら体が丈夫なおばあちゃんでも、こんなの食べたらお腹壊すよ。

 

冷凍庫の中には製氷器もあった。それは明らかに何年も使用していない様子で、製氷機自体が室内に貼り付いてしまっていて、取り出すことすらできない。そもそも今のおばあちゃんの身長では、手が届かない。となれば、当然製氷機は不要だと判断する。そして、またおばあちゃんに怒られる。「氷をつくるヤツがない」と。しぶしぶ100円均一に行き購入。決しておばあちゃんには手が届かないであろう元の位置に戻しておいた。

 

ラップ、アルミホイール、ビニル袋は部屋のいたるところから出てきた。火をつかうと危ないから、最近ではひとりで料理をしないように言っていた。しかし、実に多くの食材が出てきた。きくらげ、ちらし寿司の素、カレーのルー等。相当前に賞味期限は切れていた。

 

押入れの中も同様にカオスだった。たくさんあった来客用の布団はネズミの糞まみれ。とても使い物にはならなかったし、僕の手には負えそうもなかったので、そっと襖を閉めた。

 

他にもおばあちゃんは「ここにはアレがあった」「そこにコレがあった」と文句を言った。だけども、おばあちゃんが言った箇所は僕は手をつけてないんだよ?あげくの果てには、下駄箱の中の靴が増えたとまで言われた。減ることはあっても増えることはないはずだが言って聞かない。

 

「あんたがいらない靴を持ってきて、ここに入れたんだろう?」

 

いらない靴など持っていない。ましてやおばあちゃんが履くような靴がうちにあるはずもない。わざわざ自分の家からそれらを運んでこの靴箱にしまうような面倒なことはするはずもない。

 

「仕方がないから、私が処分しといてやるよ」

 

そんなことを言われた。いちいち反論するのも面倒だし、都合が悪くなると聞こえないふりするのはおばあちゃんの得意技だ。反論するだけ無駄なこと。

 

まあ、全ては僕が悪いのだ。勝手に人の家を片付けてはいけない。身内だろうが、相手のことを考えてだろうが、勝手にそんなことをしてはいけない。頼むから転ばないようにしてね、おばあちゃん。