「横道世之介」を読んでの感想 その男の存在感
いい本を読むとその気持ちを残しておきたくなる。読後すぐに「ブログに書き残しておこう」と思わせてくれた一冊。吉田修一「横道世之介」2009年発行。以下、ネタバレもあります。
大学進学のために上京した世之介。新宿東口から物語ははじまる。そこからはじまった大学生時代のできごと。それと大人になった今とが交じり合う。
「そういえば、世之介という男がいたよなぁ」と大人になった友達は思い出す。そのときの顔はきっと、やさしさに満ち溢れている。世之介はそういう男だったのだ。
そういう男だった。カメラマンになった大人の世之介が死んでしまったということを物語りの途中で突然知らされる。
代々木駅で起きた人身事故。転落した女性を助けようと線路へ飛び降りたふたりの男性。そのうちのひとりが世之介だった。
これを読んで、ふと思い出した。そういえば、実際にこんな出来事があったなと。調べてみると2001年に新大久保駅で同じような事故が起きていた。
多くあるニュースのひとつに過ぎない事故だけど、僕の記憶の片隅にあったということは、僕自身、やはりなにか思うことがあったのだろう。
僕には決して真似することのできない真っ直ぐなまでの正義感。この事故から感じとったものが、横道世之介という男になっていたようだ。
下手すれば単に図々しいだけの男。うちにエアコンがないからといって、エアコン持ちの友達の家に転がり込む。下手すれば空気の読めない男。だけどもその行動のひとつひとつが全然憎めない。うらやましい。僕はこういう男になりたかった。
読後感のいい一冊です。横道世之介という男に関われてよかった。