ないものねだり
朝が忙しいのは出かける時間が決まっているから。
あっという間にこんな歳になったなって思うのは人生のゴールが見えはじめたから。
中学生の三年間が異常に長く感じたのは早く大人になりたかったから。
大人になれば、なんでも自由にできると思ったから。
大人同士だ。叱られることなんてなくなると思ったから。
夏休みの四十日間が長かったのは毎日やることがなかったから。
休みの日が長く感じるのは、その日の予定がなにもないから。
そのくせ月曜日が憂鬱になるのは、どうしてだろう。
ないものねだり
無いものをむりに欲しがること。
だって僕にはそれがないんだもの。そりゃ欲しくなるよ。
手にしてしまえばそれで終わり。子どもがおもちゃをねだるのと同じ。
駄々をこねて、店の中で暴れまわって、汚い床を転げ回って、大声で泣きわめいて。そうまでして手に入れたおもちゃは一瞬にして飽きてしまう。
だってさ、親との駆け引きが面白いんだもの。どうやったら買ってくれるか。子どもだから手段を選ばないのさ。
たくさん買って、たくさんもらったから、もういいのさ。なぜだか満たされることはないんだ。もう部屋の中はそれらでいっぱいさ。
僕は気がついてよかったと思うんだ。隣の家のおじいちゃんなんて見ろよ。表の道路までそれらで溢れかえっているぜ。
大切なんだって。いくら他人がどうこういおうが、どうにもできないんだって。大切なものが多すぎるっていうのもアレだよなぁ。
大事にし過ぎてな、大切なものが大切なものに埋もれてしまってな、なにがなんだかわからなくなってるんだよな。
それでも力ずくで奪い取ってやる。