鶴の一声
僕は今日のこの日のために一年間頑張ってきたといってもいい。それを鶴の一声でひっくり返されてしまった。僕はその鶴と一度もあったことはない。
来週のシステム稼動を控え、切り替え作業を行っていたのが今日のこと。昨日も遅くまで現場の声を反映させるべく対応作業に追われていた。「こんなこと、もっと早くにいってくれればいいのに」なんて思いながら。
そして、今日の昼前のこと。現場の担当者から電話がかかってきた。
「すみませんが、新運用にストップがかかりました。システム切り替えを延期してもらえませんか?」
へ?どういうこと?今さらなにいってんの?ってか、切り替え作業の真っ最中なんですけど??突然のことにパニくる僕。
「元に戻してください」
えーっと、それは困ります。えーっと、えーっと。
うまく対応できない。適切な言葉がみつからない。電話の向こうの人間は最近、この業務を引き継いだばかりで、この人に責任がないのは明白。戸惑いをぶつけるわけにはいかない。
「ちょっと考えさせてください」と電話を切る。さて、どうしようか。悩むこと数分。とりあえずその現場のトップに相談してみることにした。
「わかった。対応する」といってはくれたものの、その人ですら力のおよばないところから圧力がかかっているらしい。
となれば、システム切り替えは中止。状態を元に戻すしかない。実はバックアップを取っていたので、状態を元に戻すこと自体は簡単にできる。大変なのはその後の社内的な調整。
上司には報告しなければいけないし、関係者にもこの状況を知らせなくてはいけない。再スタートの目処は?この後に控えている仕事の調整は?
圧力をかけてきた人の存在はわかっていて、前々から面倒な人だというウワサだけは聞いたことがあった。でも、僕はお会いしたこともないし、物理的に距離も離れている部署で足を踏み入れたこともなかったから、どうすることもできなかった。
「大丈夫、調整はできているから」
そういっていた担当者は、タイミングよく(悪く?)別の部署に異動になってしまった。僕としては無責任に逃げられた感じ。まあ、そんなつもりはないんだろうけれど。
圧力をかけてきた人物はワンマン社長タイプらしい。なんでも自分の支配下に置きたがる。実際になんでも支配下においてしまって、その結果、組織はゆがんでしまった。自分が正しいと思い込んでいて、押さえつけるタイプらしい。うーん、いちばんやっかいなタイプだ。
正論で物事を進めようとするらしいんだけど、それっていちばん困るんだよね。
「ブスにブスっていってなにが悪いんだ!」
いやいや、そうかもしれないけど、それをいっちゃあいかんでしょう。
とりあえず僕は前向きに考えることにした。このシステム切り替えは出張になるんだけど、一日短縮して週末は遊ぶことにする。そう考えると、なんだか楽しくなった。
考えたってどうしようもないや。