「家族喰い 尼崎連続変死事件の真相」を読んでの感想
尼崎連続変死事件を一言で語ろうと思っても難しい。登場人物が多過ぎるからだ。死者、行方不明者は10人以上。喰いものにされた家族は5家族。本書の巻末には登場人物の相関図や年表まで用意されている。
主犯である角田美代子が行ったことは本のタイトルにもあるように「家族」を喰いものにしているということ。親と子、姉と妹の間を引き離す。家族間で暴力をふるわせる。次は自分がターゲットにならないようにと執拗に殴る。イジメと同じ構造だ。
気に入った人間は戸籍を変えさせ自分の身内にする。血のつながりのない自分に都合のいい家族を作り上げていく。不要になったら切り捨てる。
家族を維持するためには金が必要で、そのためのターゲットを探す。ターゲットにされたものは会社を退職させられ、その退職金を奪われる。離婚させられて慰謝料として奪われる。住んでいる場所を奪われ、無一文にさせられる。それでも執拗に金を要求し、知人やサラ金に金を借りさせる。
一家族につき数千万円というお金を奪い取っている。こんなことを25年以上繰り返していたという。その間に警察はなにをやっていたのか。身内の争いは民事不介入。だから介入できないといって、適切な対応はしなかったようだ。
心底憎しみ合うのは他人よりも身内。他人には気を使えるけど、身内には感情をぶつけてしまう。これは誰もが経験しているのではないでしょうか?
暴力の支配下におかれた人ってのは、自分の意思じゃどうにもならないんだなぁと思った。
僕自身ここまでひどいことをされたことはもちろんないけど、 子ども時代は理不尽にたえることが多かったと思う。
父親は機嫌が悪いときには親という立場を使って理不尽に力でねじ伏せようとしたし、中学時代の先生(あの人たちを先生と呼ぶのも腹ただしい)は生徒を暴力や威圧で押さえつけた。学級主任なんて、今考えるとまるで美代子だもんなぁ。あの堅気ではない目つきは今でも脳裏に焼き付いている。
主犯である美代子は人の弱みに付け込むのがうまかったのだと感じた。気に入った人間の弱みはやさしく包み込んであげる。気に入らない人間の弱みは徹底的にたたく。どの家族を獲物にすべきか。どうすればこの家族は壊れるのか。
そういうことを読み取る能力に長けていて、それを最も悪い方向に使ってしまった。これをいい方向に使えれば、いいビジネスマンになれてたんじゃないかなぁ。
2011年に美代子は逮捕されますが、2012年末に留置場の中で自殺し死亡、書類送検ののち、被疑者死亡により不起訴となります。
この本を読み終えた日の夜、とても嫌な夢をみました。夢に出てくるくらいに後味の悪い事件です。ですが、こういうことが現実にあったということを僕らは受け止めないといけない。