「死ねよ」ってつぶやく人
「死ねよ」ってつぶやく人間にはじめて出会った。そんなやつはネットの世界にしかいないものだと思っていた。でも、僕の職場にいたんだ、そいつは。
「こいつ、バカなんですかね?経理のくせに」とその人は言った。たんにお互いの認識の違いで、僕からすれば、どちらに非があるというわけでもないように思えた。
「死ね」っていうほどのことだろうか?自分の思いが伝わらない人間は生きている価値がないとでもいうのだろうか?
それとも「死ね」という言葉は彼にとってはなんの意味も持たない言葉なのだろうか?
「死ね」とその人がつぶやいたときに僕はぞわぞわっとした。口にしてはいけない言葉はある。僕は彼には近寄らないようにしようと決めた。
彼はこの春の異動で僕の職場にきた人だ。その外にも何人か異動してきた人はいるのだが、おおむね様子がおかしい。
朝、ロッカーで出会っても挨拶もしない。それどころか目を合わせようともしない。それは僕に対してだけでなく、誰に対してもだ。
人とのコミュニケーションが取れないのは致命的だと思う。いくら仕事ができても、人として問題があると仕事はうまくまわっていかない。仕事ってのは結局のところ人間関係だと思っている。
ここ数日、そうした悪意にふれる機会があった。他部署の後輩と打ち合わせをしていると、頼んでもいないのに間に割り込んできて、あーだこうだという。
「そんなことも決まってないのに話を持ってくるな!」と怒鳴られた。っていうかね、それを決めるために相談しているんだからね。っていうかね、勝手に間に割り込んでこないでくれる?
この人は常日頃から文句を言いたいだけの人であって、今回もそんな感じだった。文句をいうことが目的だから、次第には話のつじつまが合わなくなって、なにが言いたいんだかわからなくなる。
話にならない人を相手にするのは非常に疲れる。だけども、以前の僕のように「非常にストレスを感じるか?」といわれれば、そんなことはない。「普通にストレスを感じる」程度で収まっている。
事が終わったあとに「かわいそうな人だなぁ」と思うようにしているのだ。人から同情されることほど惨めなものはない。かわいそうな人だと思えば、腹も立たない。僕とは立っているフィールドが違うのだから。
そうやって、僕は僕を守っている。