悪意のない会話
「Tさんにがん宣告されちゃったんですよね」
突然、その人はそういった。どうやら夢の話らしい。同じ職場のTさんに会議室に呼ばれて、その場でがん宣告をされたとのこと。すい臓がんだと言われたらしい。
「うちの母親、すい臓がんで亡くなったんだよなぁ」その人の話を聞いて僕はとっさの反応に戸惑った。どう返せばいいのか。
「どうしてTさんにすい臓がんだなんて言われなきゃいけないんですかねぇ」
その人は楽しそうに笑いながら言った。僕にとっては笑える話ではない。
「すい臓がんってのは早期発見が難しいですからね」と僕は答えた。そんなことはその人にとっては重要なことではない。現実にはすこぶる元気なのに夢で死の宣告を受けたというあり得ない話が面白い。ただ、それだけの話なのだ。
「僕の母親、すい臓がんで亡くなったんですよね」と答える選択肢もあったのだろうが、その返答では誰もしあわせにならない。その人にとっては単なる笑い話なのだ。僕の身内の不幸なんて関係ないのだ。
そこに悪意がないのはとても応える。
褒めて仕事を進める
今どきの若い人っていうのは素晴らしいなぁと思うことが多々ある。
システム構築を終えたら、とりあえず仮運用して検証をしなければいけない。そこで不具合を見つけ出したり、使い勝手を検証してもらったり。今回、僕はその検証者に若手ふたりを指名した。
「システム検証を終えましたので誰か検証者を選定してください」なんて現場の上長に頼むと、たいていは中堅どころの人間を選任してくる。が、選任される人間ってのは他にも多くの仕事を抱えていたりする。システム検証なんてやってもやらなくてもいいと思われているのか、どうしても後回しにされてしまう。
「忙しいんですよね」
忙しいという言い訳をする人間はどうにもならない。それを理由にやらないのだから。忙しいなら、引き受けなければいいのだ。断る勇気がないだけだろう?
そこで今回、僕は上長に直接相談することなく、まずは若手に直接お願いをしてみた。
「いいすよ。わかりました」
10分程度の操作説明だけで、どんどんと検証を進めてくれる。こちらの説明に逆らうこともしない(年配になるほど、ああだ、こうだ、と口だけ達者で一向に仕事が進まない人が多いのだが)
上長には事後報告でこのことを伝える。
「じゃんじゃんと検証を進めてくれています。彼は優秀です。」
自分の部下を褒められて悪い気はしないだろうから文句を言われることもない。本人にも「君はすごいねぇ」とあからさまに褒める。すると仕事のスピードはますます上がっていく。認めてあげるということは大切なことで、それがやりがいに繋がればこんなに嬉しいことはない。明日も頑張ろうね。
知らなくても問題はない
僕は社内SEです。自分でシステム案を考えては構築する。この職場はアナログ文化です。システムエンジニアは僕ひとり。口を挟んでくる人はほぼいません。口を挟めないんだと思う。
システムといっても、全然たいしたことはやってなくて、OracleとVBAでデータの入力、検索を行えるようなものを作っています。だから見た目はExcelなのね。
「さっきから開こうと思っても読み取り専用になっちゃって使えないんですよね」
あぁ、いやいや、読み取り専用でもデータ登録も検索もできますんで大丈夫ですよと伝えるとなんだか不思議そう。
Excelだと最後に上書き保存しないと保存されないですよね?なんていうから、それも必要ないですよと伝えるとやはり不思議そうな顔をする。
Oracleでデータベース化するということはデータをDBサーバに送っているということで、それをどうやったらうまく伝えることができるのか。
「テレビってボタンを押すと、そこに人が写ってたりしますよね?でも、このテレビの中に人がいるわけじゃないですよね?」
という説明が真っ先に思い浮かんだのだが、いかにも馬鹿にしているようで却下。
「入力画面としてたまたまExcelを使っているだけなんですよ。データ自体は別の場所にあるサーバに送っています」
たまたまExcelを使っているなんていわれてもピンとこないだろう。
世の中のことの大半はわからずにそれを使っているのだと思う。わからなくても別に問題はない。使えればそれでいいのだ。
僕なんて未だに鉄のかたまりが空を飛ぶことが不思議でならないし、水の上に浮かんでいることが不思議でならない。
喉のくすぐったさのカラ咳
一週間ほど前からなんとなく風邪っぽい症状です。痰がからむ咳と先日からは鼻水。喉が痛いわけでも熱が出るわけでもないので病院に行くほどでもない。
ただ、痰がからむの非常に不快だったので市販の薬を買いました。薬を買うときには必ず店員さんに相談します。素人の自分が独自の判断で買うべきではないという自分なりの考え。
店員さんに勧められた市販薬を3日分飲みきったのですが、全然効果がない。約半日、間を空けて別の薬局へ。なぜ、半日の間を空けたかと申しますと、、、まあ、気持ちの問題ですわな。違うタイプの薬を服用すべきではないという問題。その問題を解決するための空白期間。
2番目の薬はなんとなく効いてきたようで、痰の不快さはなくなりました。喉や咳が治りそうなときって、なんとなくくすぐったさがありませんか?そのくすぐったさで咳き込んでしまうような。カラ咳。これをクリアすれば完治でしょう。
秘密の画策
引っ越してきて、まだ1年も経っていないのにまた引っ越しをするという。職場の引っ越しの話だ。
去年のゴールデンウィーク明け頃、僕らは今の場所に引っ越しをした。その引っ越しもかなり行き当たりばったりだった。引っ越し直前までなにも決まっていなかったから、僕は業を煮やして、引越し先のレイアウト決めや持っていくものリストを作成した。でも、つるの一声で全てがひっくり返り、僕は賽の河原の子供となった。
話をひっくり返されても、それで事が進むなら文句はない。しかし、全てはゴタゴタだった。お湯に浸かっているカエルにこのお湯が熱湯だと悟られないよう、ゆっくりゆっくりと環境を変えて行った。
「君にはシステムの仕事をしてもらいたいんだ」
今回の引っ越しで僕は今の場所に残るつもりだった。もしくは1年前の場所に戻るか。いずれにしても新しい場所に引っ越すことは考えていなかった。そのことをやんわりと伝えると、システムの仕事をしてもらいたいなどとトンチンカンな回答をされたのだ。
いやいや、僕はこの職場にきて、ずーっとシステムの仕事をしているわけだし、むしろそれしかしていない。僕がつくったシステムの検証をあなたにお願いしていますよね?でも、あなたはそれに全く手を出そうとしてくれないですよね?僕は今の状況にほとほと困り果てているんですけど?
「一緒に引っ越すのがいやなら、それでもいいけど?」
やんわりと断った僕の引っ越しの決断にその人はたたみかけるように、そう言い放った。まるでこちらがやる気がないかのように。
この人はいつもそうだ。僕がまるでやる気がないかのように仕向ける。やる気がないのはあなたの方でしょう?
この人は自分が中心にならないと気がすまないタイプだと僕は思っている。だから、僕から仕事をお願いされるのは面白くない。僕が自ら進んで提案したシステム化案件には乗りたくないのだ。実際、他の人にお願いした案件は順調に進んでいる。この人案件だけが進んでいない。
僕は今、この人を外して仕事ができるように画策しているのだが、それはまだ秘密の画策。
賽の河原の地蔵菩薩
賽の河原。この職場。
さいのかわら【賽の河原】
- 死んだ子供が行く所といわれる冥途の三途の川の河原。ここで子供は父母の供養のために小石を積み上げて塔を作ろうとするが、絶えず鬼にくずされる。そこへ地蔵菩薩が現れて子供を救うという。
- むだな努力のたとえ。
「この三連休でやったことはなんだったんだ」と同僚は嘆いた。仕事のスケジュールが変更になり、この三連休で準備したことが全てパアになったらしい。
この職場では日常茶飯事の光景である。
それでも誰も文句を言わずに小石を積み上げる。夕方になるとどこからともなく鬼がやってきて積み上げた小石を蹴散らしてゆく。
鬼退治をしようだなんて発想が誰にもない。夕方になれば鬼がくるのはわかっているはずなんだけど、その現実を見ようとしない。
僕は地蔵菩薩になれるだろうか?
風邪を引いたらお互いに気遣おう
なんとなく風邪っぽい日々が続いている。症状としての風邪。体の節々の痛みが治まった思ったら、今度は喉が痛いような気がする。必要以上にゲホゲホやってしまうものだからその影響で余計に喉を痛めてしまう。
鼻も少し詰まり気味で寝ている間に口呼吸をしてしまうらしく、朝起きると喉が乾燥していてヒリヒリする。口と鼻が繋がっている部分。いやーな感じ。
体力的につらいってことはない。熱があるかどうかはわからない。測って熱があることを知ってしまうと、それだけで体力を奪われてしまうから。体の内側からの熱さを感じることはないので、きっと平熱。
風邪対策にみかんと栄養ドリンクを買った。これはおまじないのようなもの。みかんでビタミンを取り、寝る前に栄養ドリンクを飲めば翌朝には治る!という自己暗示。
先日会った人の奥さんが実はインフルエンザで寝込んでいたというのを昨日LINEで知った。本人もあまり体調がよさそうではなかった。そして本人も昨日ダウンしたよう。
「インフルエンザで寝込んでいた妻は回復基調にあります」
え?インフルエンザだったの?会ったときには風邪だっていってたよね?
インフルエンザの件を隠されていたようで、なんだかいやだった。もうね、それを知っただけで僕自身もインフルエンザになってしまったような気がする。
「予防注射はしてないの?じゃインフルにかかって仕方がないよ」
以前の職場でこんなことをいっていた人がいた。仕方がない。そういう前にどうして「お大事に」の一言が言えないのだろうか。残念な大人にはなりたくないと感じたことを思い出した。